交渉術を日本に届けようと思ったきっかけ
私が交渉術の研修講師として活動を始めてから、気づけば20年が経ちました。
その間に『すぐに使えるビジネス交渉14のスキル』という書籍も出版し、
延べ1万人以上のビジネスパーソンに交渉の研修を提供してきました。
そもそもの原点は、オーストラリアのビジネススクールでの
学びにありました。
私はボンド大学のMBA大学院で、約10日間、朝から晩まで「交渉漬け」の
トレーニングを受けました。
毎日交渉を実践し、議論する濃密な時間。
その中で強く感じたのは、
「欧米のビジネスパーソンはこういった交渉を徹底的に学び、磨いている」
ということでした。
当時2005〜2006年頃、日本のビジネススクールには「交渉術」を教える研修が
ほとんど存在しませんでした。
日本は“調整文化”“忖度文化”が根づいており、それが美徳である一方、
グローバル化が進む中で不利に働くのではないか。
そう考えたときに、「交渉術こそ、これからの日本のビジネスパーソンに不可欠だ」と
確信したのです。
欧米式交渉術が必要な理由
日本人は相手を思いやり、相手の立場を尊重することを大切にしてきました。
もちろん、それは強みでもあります。
しかし、グローバルの舞台では「主張すべきことは主張する」
「譲歩の裏には必ず見返りを求める」と
いった交渉の基本が当たり前に行われています。
もし日本人が“遠慮”や“空気読み”だけで臨んでしまえば、結果として
大きな不利益を被る可能性がある。
だからこそ、欧米で体系化された交渉の考え方やプロセスを学ぶことは、
日本のビジネスパーソンが世界で活躍するための武器になる。
そう信じて、私は交渉術研修の提供を始めました。
交渉の現場と「トランプ流」
最近では「トランプ関税」など、国際交渉の話題がニュースで取り上げられる
機会も増えています。
トランプ大統領の交渉スタイルは、日本人から見ると強引に映り、
ときに違和感を覚えるかもしれません。
ですが、
彼の著書にもあるように、強烈なアンカーリング(初期提示)や取引の分断と再構築など、
交渉学の教科書に出てくるような戦術を駆使しています。
つまり「トランプ流」は特別なものではなく、欧米の交渉の常識の一つに過ぎないのです。
日本の交渉力を強くするために
この20年間で、私の交渉研修を受講いただいた多くの方々が、
実際のビジネスの場で成果を挙げてくださいました。
その背景には、「交渉は勝つ負けるではなく、価値を交換し合うプロセスである」という
理解が浸透してきたことがあります。
これからも、欧米流のテクニックを日本流の“人を思いやる文化”と融合させ、
グローバルに通用する交渉力を育んでいくことが、私の使命だと考えています。
最後に、トランプ氏の著書から、彼の交渉術の考え方をご紹介したいと思います。
補助資料:トランプ流・交渉の11原則
(出典:Donald J. Trump, The Art of the Deal, Chapter 2)
1. Think Big|大きく考える
トランプは常に「でかく考える」ことを心がけてきた。小さなビジネスは小さな成果しか生まない。
どうせ考えるなら、最初から大胆で壮大な目標を持った方が良い。
人は“大きな夢”に惹かれ、巻き込まれていく。これが、成功の第一歩である。
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2. Protect the Downside and the Upside Will Take Care of Itself|損失を守れば、利益は後からついてくる
どんなディールでも最悪のケースを想定し、それに備えることが最優先。
リスクを最小限に抑えることで、予期せぬ好機(Upside)が訪れた時にしっかりつかめる。
トランプは「失敗しても致命傷にならない設計」を必ず事前に仕込む。
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3. Maximize Your Options|選択肢を最大化する
1つの道しかない状況は、交渉において最も不利である。
常に代替案や複数の出口を持っておくことで、立場を有利に保てる。
選択肢があることで、相手に対して主導権を握れるようになる。
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4. Know Your Market|市場を知る
相手を“説得”する前に、自分が何を売っているのか、誰に売っているのかを理解していなければならない。
市場の動向、顧客の好み、競合の存在など、徹底的なリサーチが不可欠。
成功するビジネスマンは、常に“現場”と“データ”に敏感である。
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5. Use Your Leverage|交渉材料(レバレッジ)を活かす
交渉において力があるかどうかは、見た目だけではわからない。
本当の意味でのレバレッジとは、「相手があなたから何を得たいか」を知り、それを手元に持っている状態である。
交渉は、持っているものではなく「どう使うか」で結果が決まる。
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6. Enhance Your Location|場所や条件の魅力を引き出す
価値というのは、実態以上に「どう見えるか」で決まる。
建物や土地、商品、ブランド――すべての「魅力」は、見せ方ひとつで大きく変わる。
立地や条件が不利に見える時ほど、見せ方に工夫を凝らすべきである。
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7. Get the Word Out|情報を広める
良い商品やプロジェクトでも、人に知られなければ存在しないのと同じである。
トランプはPRをビジネス戦略の一部と位置づけ、新聞・テレビ・雑誌などをフル活用して自らを売り込む。
交渉相手に「この人はすごい」と思わせる環境は、自分でつくり出すもの。
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8. Fight Back|攻撃されたら必ず反撃する
誤った報道、根拠のない非難、悪意あるゴシップに対しては沈黙しない。
「反論すべきときにきちんと声を上げる」ことで、信頼性と立場を守る。
強い姿勢を見せることは、自身のブランドを防衛する手段でもある。
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9. Deliver the Goods|約束は果たす(結果を出す)
どんなに華やかな宣伝をしても、結果が伴わなければ意味はない。
約束したことを実現する、期待された以上の成果を出す――それが次の信頼につながる。
ディールは「続けてなんぼ」。信頼の積み重ねが連鎖するビジネスを生む。
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10. Contain the Costs|コストは徹底して管理する
華やかな外見の裏で、トランプは非常にシビアにコスト管理をしている。
予算の上限を明確にし、無駄な支出を抑えることで、ディールの“持続性”が生まれる。
お金の扱い方こそ、交渉者の実力を最もよく表す。
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11. Have Fun|楽しむことを忘れない
トランプにとって交渉とは、義務ではなく楽しみであり、創造の場である。
困難な局面でも「楽しむ気持ち」を忘れなければ、周囲を巻き込むエネルギーが生まれる。
心から交渉を楽しむ人間には、チャンスが自然と集まってくる。
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いかがでしょうか。
みなさんのビジネスやプライベートの交渉でも活用できそうな
交渉テクニックがあれば、ぜひ挑戦してみてください!
もちろん、当社交渉研修においても様々な交渉スキルや考え方を皆様にご紹介いたします。
葛西伸一
- 2025/10/24
- 社長コラム
- 投稿者:葛西 伸一
